モーニン!

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【第17回】今こそ問おう。すっぴんは失礼か?

「君さぁ、化粧してる?」
「えっと、あの、少しだけ……」
あのとき言い淀んだのは、化粧をしていることを咎められたからだと思ったからだ。
レストランのホールスタッフとして働きはじめて、3回目の勤務の日。ハンバーグの重い鉄板を大量に手洗いし、さらに洗浄機にかけ、その間にサラダを作り、お客様が帰ると間髪入れずに鉄板と皿を片付ける。緊張しながらも教えられた仕事を終えて、一息ついたところで店長に呼び出された。
おどおどする私に、店長は大袈裟にため息をつく。
「アイプチって知ってる?」
「はい?」
生まれつき一重で逆まつげの私。存在は知っている。周りの友達にもアイプチを使っている子はいるし、馴染みのあるものではあったが……。
男性である店長の口からアイプチという単語が飛び出すとは思っていなかった。しかも、仕事中に。
「糊でまぶたをくっつけてさぁ、二重にするやつ、あるんだよ。ドラッグストアとかで売ってるからさぁ、次の出勤の時それやってこいよ」
「は、はぁ……」
「客商売なんだから、すっぴんじゃお客様に失礼だろ。そんなこともわかんねぇの?」
あ、そうか。そこでやっと私は理解する。
さっきの「化粧してる?」は化粧をしていることを咎められたわけではなく、化粧をしていないことへの注意だったのか!
その後も私の容姿への注意(髪が黒くて地味だから染めろとか、肌が黒いから美白しろとか、そういう類いのもの)が続き、最終的には大学で法律を学んでいることに対して弁護士になるのは夢が大きすぎるから諦めろと謎の忠告を受け、私は仕事場に戻された。
その場では訳がわからず「すみません、すみません」と頭を下げたが、後から怒りがこみ上げてきて、バイト帰りに怒りに任せてドラッグストアでアイプチを買った。
次のバイトにはアイプチをつけて二重にして行ったところ、「二重似合わんな」とゲラゲラ笑われ、ひどく惨めな気持ちになった。
これって、セクハラですか? セクシャルかはわからないけど、たぶん何らかのハラスメントですよね?
こんなことがその後も続き、私は初めてのバイトを1ヶ月で辞めた。働いた1ヶ月分のお給料はなんやかんやと理由をつけてうやむやにされ、結局一銭ももらえなかったので、大学1年生の7月、1日5時間週3日をボランティアと店長からのハラスメントを受けるために費やしたことになる。お給料をもらえるほどの働きはしてなかったとはいえ、ひどい話だ。

しかしながら、店長の言葉に受けた衝撃は今でも忘れられない。
『すっぴんじゃ、お客様に失礼だろ?』
今こそ問いたい。すっぴんは、失礼なのか?


私の通っていた高校では化粧をすることが校則で禁じられていた。眉を整えることすら悪とされていた。
不定期で行われる容儀検査では、化粧をしていないか、髪を染めていないか、スカートの丈を短くしていないかだけでなく、眉を切ったり剃ったり抜いたりしている生徒がいないか、厳しくチェックされたものだ。
眉をしっかり見せるために前髪は眉にかからない程度に切るよう指導され、ちょっとでも眉にかかれば前髪をピンで留めるように注意された。
先生たちがなぜあんなに眉を敵視していたのか。恐らく、眉を整えていなければ他の部分をバッチリメイクアップしても、もさっとした印象になるから全体的に化粧をしなくなると判断したのだろう。確かに化粧をする上で眉はとても大事だ。
当時は、容姿に気を配ることは勉強の邪魔になる、学生の本分は勉強だという先生たちの詭弁に素直に納得していた。
否、優等生の自分でいるために、納得している振りをしていた。
だから、店長に化粧をしているかと聞かれ、ビクッとしてしまったのだ。

大学に入ってから、こわごわ化粧をするようになった。高校を卒業した先輩たちからそういうものだと聞いていたからだ。女子大生という生き物は私服で学校に通い、化粧をするものだと。
同じ高校を卒業した友人と天神に出かけ、勝手がわからないながらも化粧品を一通り揃えた。
愛読していたnon・noの初心者向けメイク特集を熟読し、家で毎日こっそり練習した。
化粧をすることに罪悪感を拭えないまま。
模範的な生徒は化粧をしない。眉毛も整えられない。初めて自分の眉にハサミを入れた日、懸命に信じようとしてきた校則にハサミを入れた気がして勝手に手が震えた。
化粧をしているかと店長に聞かれたとき、私は本当に化粧していた。だって、女子大生ってそういうものだから。
ただし、気づかれない程度に、だ。眉を書いて、マスカラをつけた程度の薄化粧。容儀検査なんてもう受けなくていいのに、化粧をしていると人に知られるのが怖かった。
そこに、店長のあの発言である。
井の中の蛙は、化粧をすると怒られる井戸の中から一転、化粧をしなければ怒られる大海に飛び出してしまったのだと感じ、震えた。


日常的に化粧をするようになって、私はあの頃を懐かしく振り返ることができる。
しかし、だ。化粧って慣れだと思う。
全く化粧をしてこなかった人間がいきなり化粧をしたところでうまくいくはずがない。ましてや親の敵さながらに厳しく指導されてきて、容姿を整えることへの罪悪感を植え付けられていた私には化粧をすることに抵抗があった。
それでも化粧をするようになったのは、店長への意地みたいなものだ。
こわごわながら始めた化粧は、最初は全然馴染まなかった。
グラデーションをつけるためのハイライトをシャドウと勘違いしてまぶたに塗りたくって、「あやなの目はいつも白いね」と言われることもあった。
一重の人はアイラインを上下にくっきり引こうという雑誌のアドバイスを真に受けて、パンクロッカーみたいと指摘されたこともあった。
大人っぽいと思ってつけてみた赤い口紅が合わなくて、唇ががさがさに荒れて泣いたこともある。
失敗しながらも、ちょっとずつ自分に合うやり方、自分に合う色を見つけていくものなんだと思う。
私はいまだに自分のやり方が正解なのかわからない。いい年してドラッグストアのプチプラコスメが好きで、百貨店のコスメカウンターに座るとなんだかそわそわする。雑誌を読んでみたり新商品に飛び付いてみたり、やっぱりいつもの人がいいわーなんて、元サヤに戻ってみたりもする。
この過程を、ものすごくちっぽけで独善的な挑戦を、私は楽しんでいる。

すっぴんはお客様に失礼だ、と言ったあのときの店長。
私が化粧が全くいらないくらいの圧倒的な美人だったら、同じことを言っただろうか?
おそらく、言わなかったと思う。
すっぴんだとわかっても、
「えっ、化粧してないの? してないのにそんだけ美人なの? すげー!」
くらいのことは言ったんじゃないか。腹立たしい。初めてのバイトだと言って入ってきた使えない新人がどう見てもすっぴんでブスだから、そのときの気分に任せて傷つけてもいいと思ったんだろう。
つまり、彼が本当に言いたかったのはすっぴんが失礼なのではなく、ブスが失礼だということだ。
もっというと、ブスのくせに化粧という努力もせずに人前に立つということが失礼だということだ。
まったく、失礼なのはどっちだ。若くて右も左もわからない世間知らずだからって、バイトの女の子を捕まえて憂さ晴らしをするような男の言うことを真剣に考えるのはバカらしい。すっぴんが失礼かどうか、検討する価値もない。

今、私が化粧をするのは、すっぴんが失礼だからでも、人前に立つための努力をするためでもない。
化粧を終えて、鏡を見たときに「よし!」と思うためなのだ。
意外と濃い色の口紅が似合うな、とか。
黒髪でも眉を明るめにしたら重くならないな、とか。
単色シャドウが流行っているけど、色を選ばないとまぶたが腫れぼったく見えるな、とか。
小さいけれど毎日気づきがある。一向に美人になってくれない自分の顔だけど、色を重ねればそれなりに変わる。
最初はこわごわかもしれない。そういうちょっとした挑戦と気づきの積み重ねで、たぶん人は少しずついい方向に変わっていくのだと思う。

4月になると、垢抜けないひどい化粧の女の子たちが町中に出現する。かつての私もそこにいる。たぶん今の私もそう変わらない。
染めたての明るい茶髪をきらめかせ、ぎこちない化粧で爛漫に笑う女子大生。すれ違いざまに、自室の鏡の前で思案する彼女たちを思う。
大海に飛び出した蛙たちよ、大いに悩もう。
ゴールのない同じ海を漂う、先輩蛙からの有り難くないメッセージだ。
すれ違った女子大生の髪からは、甘いけど甘ったるくはなく、ちょっぴり切ない汗のにおいがした。

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おはようございます。あやなです。

8月くらいに書いて提出していなかった記事を再利用してみました。

て、手抜きと言わないで!

 

それでは皆さん、行ってらっしゃいませ(*´-`)

今日から月曜日、張り切っていきましょう!

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本日の起床時刻

6:32

朝ごはん

友人の岡山土産のゼリー

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