モーニン!

ただのOLが平日限定で9:00までに更新するブログ

クリスマスかくれんぼ①

もういいかい?  「まぁだだよ」

もういいかい?  「まぁだだよ」

もう(Amazonギフトカードで)いいかい?

プレゼント選びのたびに泣きそうになります。クリスマス、誕生日、何かの記念日、何かのお祝い……。そのひとにとって一番いいものを贈りたい、そう思うのは人情ですよね。

しかしながら、プレゼントのネタって尽きてくるもので、もうよくわからない、いっそAmazonギフトカードを贈って自分の好きなものを買ってもらいたいくらいだ、と投げてしまいたくなります。

そんなとき、今までに貰ったあたたかなプレゼントを思い出し、自分自身に「まぁだだよ」と言い聞かせます。

まぁだだよ。最高のプレゼント選びはまだまだこれからだよ。

 

今日・明日・明後日は当ブログよりクリスマスプレゼントにまつわる記憶をお届けします。

皆さま、素敵なクリスマスをお過ごしください(*´-`)

 

***

 

【人生を変えるサンタクロース】

私の家にはサンタクロースは来なかった。

はじめから母や父からプレゼントを手渡しされる幼少期を過ごし、サンタクロースを信じたこともなかった。周りの子供たちが素直にサンタを信じている中、自分だけが世の中の真理を手に入れている優越感と、少しの妬ましさを感じていた。

両親から受け取る図書カードは、1年間の通知表だった。いい子にしていたご褒美だった。幼いながら自分の好きな本を自分の責任で買える権利を与えられ、私はとても誇らしかった。

しかし、同時に寂しさもあった。

一度だけ、一度だけ我が家にサンタクロースが来た年がある。小学5年生のクリスマスだった。

12月25日の朝、枕元に置かれた靴下。

見つけたときあまりに驚いて、母親に抱きついたのを覚えている。

「お母さん、お母さんお母さんお母さん!」

「どうしたの?  サンタクロースでも来たの?」

そのプレゼントが父の用意したものであるとわかっていた。けれど、こうした不器用な演出をしてくれることが一番嬉しかった。

靴下の中から出てきたのは、子供向けの文庫本だった。

自分で選ぶのではなく、初めてひとに選んでもらった本。

奇しくもこの本が私の人生を変えることになる。

「そして五人がいなくなる」

サンタクロースが私に贈った本のタイトルだ。青い鳥文庫の子供向けのミステリー。この本との出会いによって私はミステリーの楽しさを知り、また、教師として勤めながら作家になった作者のはやみねかおるさんに憧れることになる。高校で文芸部に入ったのも、作家を目指そうと思ったのも、登場人物の岩崎亜衣ちゃんに憧れたからだ。

まさに人生を変える一冊。

サンタクロースがくれた、人生のスイッチだった。

 

大学4年生の春、はやみねかおるさんにお会いした。福岡の紀伊国屋書店でサイン会が行われたのだ。どうしても行きたくて、就活の合間に本屋に走った。

子供たちが並ぶ中、私一人だけがかつての子供だった。スーツを着て並ぶ私をやさしげに垂れた目に留めて、はやみねさんは、

「お仕事ですか?」

と言った。

「いえ、就活中で」

「あぁ、すみません。大学生なんですね」

元小学校教師の彼は、もう子供でもない私にもとてもやさしかった。

「小学生の頃に初めて先生の本を読んで、それ以来ずっと大好きで……」

「そうですか。ありがとうございます」

「絶対にうまく話せないと思ったので、お手紙を書きました。よかったら」

「ありがとう。帰りの新幹線の中で読ませていただきますね」

別れの時間は迫っている。

私は焦って、言わないでいようと思っていた言葉をつい、口走ってしまった。

「あ、あの!」

握手をして、手が離れていく瞬間。

はやみねさんの目が少し大きく開かれた気がした。

「私、将来作家になります。はやみね先生のことをずっとずっと、尊敬してます!」

やわらかく、あたたかく、小さな手が離れていく。けれど私の手に体温はまだ残っている。

はやみねさんは、笑って、

「あなたの本を読める日を、楽しみにしてます」

と言ってくださった。

 

人生を変えた本、人生を変えたひと。

出会わせてくれたのは、たった一度だけ私の家を気まぐれに訪れたサンタクロースだった。

「お父さん、ありがとう」

12月25日、クリスマスケーキを食べながら父にお礼を言った。

「ありがとうって何だ?  今年のプレゼントは、お父さんじゃなくてサンタクロースがくれたんだぞ」

父の下手な嘘を思い出す。

ありがとう、出会わせてくれて。

ありがとう、夢をくれて。

最初で最後のサンタクロースに、ありがとうを伝えたい。

 

20161223

クリスマス企画#01