モーニン!

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【第61回】自信、自尊心、自分自身

もっと自信を持ってもいいんだよ。でも、自信は何度も砕かれるものだからね。

 

生まれてはじめて、「ファン」ができました。高校2年生の春、うら若き女子高生だった頃。私のファンだと言ってくれたのは国語のU先生でした。

「あやなさん。U先生が呼んでるから、放課後職員室に行くように」 

「U先生?」

あぁ、あの"眼鏡をかけたしろくま"みたいな風貌の……。その程度の認識しかない先生でした。

教科の担当ではなく、教えている学年も違うU先生に突然職員室に呼び出され、何事でしょうかとハラハラしながら出頭すると彼は文芸部の部誌を差し出して、「君の小説を読んだよ」と厳かに言い放ちました。

「僕が教えているクラスには文芸部のーー君の後輩がいてね、ほら、Mさん、わかるだろう?  あの子が部誌をくれたんだ」

「ひぇ。そうなんですか……先生にまで目を通していただいて、恐縮です」

「僕も高校時代、文芸部だったんだよ。最近の若い子はこんな小説を書くんだなぁ、かわいらしいなぁ、と思って読んでいたら、君の小説を見つけた。衝撃を受けたよ、高校生がこんなものを書けるのかって」

はっきり言おう。僕は、君のファンになりました。

U先生は、"眼鏡をかけたしろくま"は大きなからだをぐいと乗り出し、熱く語り始めました。

当時の私は歴史あるD高の文芸部員でした。ぶっちゃけこの文芸部に入るため、志望校を変えたのでした。

私は文芸部で、いわゆる、ボーイ・ミーツ・ガールの青春小説のようなものを多く書きましたが、そういったものは全部「上っ滑りしてる」「笑える話のはずなのにあんまり面白くない」「恋愛ものは向いてない」と散々な言われようでした。私も部誌を読んでいて、確かにそう感じました。他の部員のように、明るく爽やかな小説を書くことができませんでした。

そのかわりに書いたのは、ミステリのようなサスペンスのような、殺人犯の手記でした。自分の人生を狂わせた男の娘かもしれない少女に恋い焦がれ、行き場を失った男の独白です。

ひとがひとを殺すとき、殺人犯は殺す者の中に何を見ているのだろう、とずっと考えていました。憎悪なのか、快楽なのか。それとも対象のすり替えなのか、反射なのか。今、話の内容を思い出すと、とても稚拙で恥ずかしくなりますが、U先生はどうやらその小説に目を止めてくれたようでした。

「すごい話だった。重いテーマをよく書ききったと思う」

しかし、「僕は君のファンだ」と言うくせに全肯定してくれないところが、U先生らしかったのかもしれません。昔から不思議なんですけど、私を好きだと言ってくれる方は一様に私に厳しいのです。U先生もまたそうでした。

「やめてください。そんな風に誉められたら、私うぬぼれてしまいます」

「自惚れていいんだよ。君はもっと自信を持ってもいいんだ。ただ、自信は何度も砕かれるものだけどね」

あ、そうなんだ。ありのままの君でいいんだよ、とか、君は誰よりも優れている、とか、そういうのじゃないんだな。べた褒めはしてくれないんだな。現実的なアドバイスは嬉しくもあり、少しがっかりしたりして。

U先生は眼鏡の奥の小さな目を細めて、嬉しそうにしていました。

「自信をつけては砕かれて、砕かれてはまた自信をつけて、そうやって書いていくといい」

悔しがって泣きわめく君は、一体どんな小説を書くんだろうなぁ。今から僕は楽しみだよ。

 

嬉しそうなU先生とは裏腹に、私はきょとんとしていました。先生の話がぴんとこなかったのは、泣きわめく自分の姿が想像できなかったからでした。

いつか私も猛烈に悔しがって泣きわめく日が来るのだろうか……そんなことを考えている時点で、その頃の私は十分自惚れていたのだと思います。

あれから10年経ちますが、私はこれまで悔しがって泣きわめくということをしたことがありませんでした。泣きわめくくらいなら諦めてしまった方が楽だから。みっともなくしがみついてでも成し遂げたい情熱など、私には無縁なのだと思っていました。

U先生、今かもしれません!  今こそ、悔しがって泣きわめくときなのかもしれません!

私には「情熱」と「執着」の違いがわかりません。だから、なにかを好きになるのがひどく怖かった。「好きだから」を理由にすると、途端に手放してしまいたくなります。どうして書いているのか。「好きだから」なのか「過去の夢にとらわれているから」なのか、いつも迷いました。他のひとは皆、まっすぐ歩いているように見えて、ひどくうしろめたかった。はるか先を歩くその背中を、なにも言わずじっとりと見つめています。私に足りないものは何だろう。私と彼/彼女らの違いは何なんだろう。そんなことを延々考えながら。

U先生、これが私の泣きわめく姿です。どうですか?  自信も自尊心も砕かれて、ぼろぼろの自分自身で書けるものを探しています。正しく「好き」でいられない私は、正しく「悔しがる」こともできないのです。ごめんなさい。心はずっと叫んでいます。誰にも聞こえないかもしれないけれど。

こんな私は、どんな小説を書けるのでしょうか。U先生、今になってやっと、私も楽しみになってきましたよ。

 

先日、母がラインで母校の写真を送ってくれました。青空の下、グラウンドのフェンスにくくりつけられた白い横断幕がたなびいて。小さく写り込んだ赤い文字は「D高文芸部 最優秀賞3連覇」と。

後輩が、がんばっている。

ちくしょー!  上には押し潰され、下は伸びてくるし、圧死しそう!  もう、勘弁して!

とりあえず私は、無意識に自惚れていたかつての部員として、いつか文芸部に錦を飾りたいと思っているところです。NHKの「課外授業 ようこそ先輩」よろしく、招かれたいですね、プロの作家として。そして、話をするんだ。青春小説を書くと滑ってると言われたこととか、恋愛小説は向いてない話。U先生に教えられた、「自信は砕かれるもの」だという話。悔しがって泣きわめいている今の私を、早く、笑い話にしちゃいたい。早く舞台に立ちたい。声量を上げるために腹筋に励んでいる真っ最中です。

 

……というわけで、悪足掻きします!

レベッカの「Maybe Tomorrow」を聞いてたけど、どうやらそんな場合じゃないらしいので、アン・ルイスメドレーにスイッチを切り替えることにします。

では、また明日。

 

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本日の起床時刻

3:10(仕事はちゃんとやりました)

朝ごはん

ファミマのイカソーメンをむさぼり食った

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