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クリスマスかくれんぼ②

【男のエゴと、興醒めなリング】

人生で一度だけ、男に指輪をもらったことがある。

誕生石のルビーに似た赤い石のついた、大層かわいらしいデザインだった。

彼の前では、「わぁ、ありがとう。可愛い指輪ね」と喜んで見せたけれど、実際のところ私の心の中は冷めきっていて、ブリザードが吹き荒れるようだった。

男は喜ぶ私を見て、ご満悦だった。「君が好きそうなデザインだと思って。つけてみて。きっと似合うよ」そう言うから、おざなりに指に通した。関節を通るとき、痛みを覚えた。

この指輪は私には少し窮屈ね、ともっともらしい理由をつけて外し、私は指輪を自主的につけることなく、やがて無くした。

男の誘いを断るようになり、自然と会わなくなった。

趣味が合わない、と思った。

指輪のデザインもサイズも、価値観も合わなかった。そもそも彼は私の恋人でもなんでもなかったのだ。

男はどうして、プレゼントにアクセサリーを贈りたがるのだろうか。指輪にネックレスに、ピアス。私の趣味なんかこれっぽっちも理解していない、的はずれなデザインのアクセサリー。

あの男は私がそれを望んでいると本気で信じていたのだろう。

いい人、だったのだけれど。あの指輪を見て「いいかも」と乗りかけていた情熱がスッと冷めたから、女って怖い。いや、単に私の性格が悪いのかもしれない。

『悪いことしたなぁ』

『でもこれは仕方ないでしょ』

カードは常に2枚持っている。1枚はイエスの青、もう1枚はノーの赤だ。

ルビーの指輪は私にとって、赤。ごめんなさい、ノーのカードが勝ってしまった。

 

さて、あれから5年ほど経ち、私は今クリスマスを前に頭を抱えている。

プレゼントに何を選ぼう?

久々にできた彼氏への、初めてのクリスマスプレゼント。久々に訪れたメンズブランドの店で、右往左往している。

異性へのプレゼントは難しい!  しかも私は社会人、3つ年下の彼はまだ学生だ。何を贈ればいいのかわからん。そりゃあ、誕生石の指輪だって贈るわ。的外れだとか興ざめだとか散々言ったけど、迷うわ!  ごめん!

「クリスマスプレゼントなら、人気なのはやっぱりマフラーですかね。定番のチェックはいかがですか?」

「手袋もいいですよ。最近はつけたままスマホの操作ができるタイプが人気です!」

「彼氏へのプレゼントなら、ボクサーパンツを選ばれる方も多いですよ。僕も彼女にこれ贈られたらちょっとドキッとしちゃいますね」

どれだ!

どれが正解なんだ!

どれも正解なんだろうけど!

彼の正解はどれなんだ!

あげるなら、一番喜ぶものを。青カードを選びたい。

私はさんざん迷った挙げ句、最近ちらっと欲しいと言っていた(気がする)ヘッドホンを選んだ。欲しいと言うものならまぁ、間違いはない気がした。彼に似合いそうなブルゾンも見つけたけれど、趣味に合うか考えあぐねていたら面倒になった。

少々味気ないが、外れを引くよりましだ。

せめてものクリスマス感を出すために、ラッピングの包装紙は赤と緑のしましまにしてもらった。金のクリスマスツリーのシールをつけてもらえば……ほら、完璧!

 

少し大きめのバッグにしましまの包みを隠し持ち、カジュアルなフレンチレストランにやってきた。2週間前に決めて予約した店は、完璧なクリスマスにふさわしい装いだ。こんな場所に個室を借りて、二人きりの空間を作る贅沢よ。

しかしそんなお店に彼はなんと、大きな袋を持ってやってきた。驚いた。サンタかと思った。いつもよりおしゃれして、服装はかっちりと決めているのに不似合いだ。

情けない顔をする私の男に、ぷっと吹き出した。

「どうしたの、そのでっかい袋」

「クリスマスプレゼント。サプライズにしたかったんだけど、さすがに鞄に入らなくて……」

その大きな袋から、一体何が出てくるのだろう。さすがにこの大きさ、指輪ではあるまい。

そわそわしながら食事を終え、いよいよクリスマスプレゼントの交換だ。

彼は私のプレゼントを喜んでくれた。

「これ、俺が欲しいって言ってた奴だ。覚えててくれたんだ、ありがとう」

モノが嬉しいんじゃなくて、覚えていてくれたことが嬉しい、と彼は言った。

ほっと胸を撫で下ろす。そうか、私はちゃんと青いカードを引けたんだ。よかったよかった、ひと安心だ。

さて……。問題の、大きな袋に視線を移す。

「ごめん。俺、女の子が何喜ぶかとかわかんなくて。ほんとは指輪とかネックレスとかの方がいいのかなと思ったんだけど……」

さすがにこの大きさの袋にアクセサリーの類いは入っていないらしい。さすがにそうか。さすがにね。

ドキドキしながら、袋を開けると思わぬモノが入っていた。

「フードプロセッサー……?」

あれば便利だろうけど、欲しいと言ったことはないはずだ。彼も料理をするひとではないから、おすすめ品でもないだろう。

どうして彼がこのプレゼントをチョイスしたのか、私は首をひねる。

年下の恋人はプレゼントを再びきれいに包み直し、彼が持ってきた袋に入れた。

はい、と渡す顔はちょっと照れている。

「ごめん、今年は俺があげたいものを渡した。来年のクリスマスは、君が欲しいものをちゃんと用意するから、これで俺においしいご飯を作ってください」

 

プレゼントはエゴで選ぶものだ。

あげたいものをあげる、でいいのだ。相手の欲しいものを探ろうとするから無理が出る。ルビーの指輪が私の趣味ではなかったように。君の欲しいものはこれだろう、と言わると途端に火の付きかけた恋は冷めてしまった。この男は私を何も理解していないのだ、と思ってしまった。

年下の恋人に押し付けられた純粋なエゴは、私の心をときめかせた。

私もやっぱりあのブルゾンを選べばよかった。彼の趣味かわからないけど、絶対に似合うブルゾンを。エゴを押し付けてみればよかった。

「来年のクリスマスで食べたいもの、今から考えておいてね」

まぁ、いいか。まだこの恋は走り出したばかり。来年のクリスマスまで時間はある。

エゴとエゴをぶつけ合うクリスマス。

決戦の日まで、今より一つでも多く彼を理解していたい。そう思った。

 

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※この物語はフィクションです。

眠りに就くまでが、今日!

と主張しつつ。

 

20161224

クリスマス企画#02