モーニン!

ただのOLが平日限定で9:00までに更新するブログ

エイプリルフールなので、嘘をつきます。

おはようございます。あやなです。

エイプリルフールなので、嘘をつきます。これから書くことは、全部嘘です。そうです、嘘だから何を言ってもいい、だから今まで言えなかったことを書いてしまおうと思います。

 

昨日は、私の兄の結婚前夜でした。

血の繋がりはありません。それどころか出会ったのも私が22歳の頃です。出会い頭に年を聞かれて、25歳になったばかりの兄が「あやなちゃん、まだ22歳かぁ。若いなぁ」と眼鏡の奥の小さな目をさらに細めたのを覚えています。本人に言ったら全然覚えていなかったのですが。

随分年上のように思っていた兄の年を追い越し、アラサーアラサーと揶揄していた私自身がアラサーになり、2歳年上の兄は三十路になりました。どこまで走っても追い付かない年の人。年上の男の人に優しくされたのは、生まれて初めてだったような気がしています。

感情の起伏の少ない、いつも微笑んでいる人でした。飄々として、何を考えているか読めない。そのくせ、人の目をまっすぐ覗き込み、こちらの心を読んでしまう厄介な人。

「おじさん、おじさん」と呼んでも、甘ったれた愚痴を吐いても、兄が私に怒ることはありませんでした。大学のこと、就活やバイトや、恋愛のこと。何もうまくいかなくてイライラしていた私の話を聞いても、何も否定せず、黙って聞いていました。

その代わり、彼はいつも私に問うのです。

「どうして、そう思うの?」

まっすぐ目を見て。

静かな低い声に問われるたびに、言葉に詰まりました。本当のところ、私はただ甘えてわがままを言いたかっただけなのだと思います。理由なんてなくて、ぎゃあぎゃあと文句を言っていたかっただけなんです。だから、怒ってくれてよかったのに、彼はそうしませんでした。

あの頃の私は相当嫌な奴だったのに、どうして怒らなかったんですか、と聞くと、嫌なことを言える人がいない子なんだろうなって思ったからだよ、と兄はやっぱり静かに微笑んでくれました。

 

兄の部屋にはたくさんの人が集まりました。メゾネットの広い部屋に雀卓を持ち込んで、部屋に朝日が差す時間までじゃらじゃらと石の音を鳴らしました。兄はあまり夜に強くなく、途中で寝落ちしては誰よりも早く起きたものです。寝息が轟く兄の部屋で、それまで感じたことのない安心感を得ました。

年上から年下まで。男も女もごちゃ混ぜで、混浴の露天風呂のような、温かさがありました。泣いたり笑ったり、距離が近すぎて喧嘩もしたし、いいことばかりではなかったかもしれないけれど、みんな兄の家が大好きでした。

平坦な兄が生涯の伴侶に選んだのは、気の強く寂しがり屋の女の子。あの家にいた、メンバーの一人です。私にとっては、彼女だって妹のような存在です。

二人はこの春共に新生活を始め、はるか遠く北の地に飛び立っていきました。

今日書くことは全部嘘です。嘘なので、言ってもいいですか?

私はとっても寂しいのです。

兄の家はもうありません。福岡に残った人も出ていった人も、皆社会人になり、自分の人生を生きています。

私と一緒にいるときの兄は、常に優しく穏やかでした。

私と一緒にいるときの妹は、不器用で放っておけない子でした。

妹のことに関してだけ、兄は厳しく怒ることがあります。妹も兄にだけは素直になって涙を流すこともあるのだと言います。二人揃って完璧になる夫婦です。

兄と妹を見ていると、なるべくして一緒になった二人なのだと思います。

だから、二人が幸せになるのは嬉しいことなのに、どうしてでしょう。私はとっても寂しいのです。

 

お兄さん。

エイプリルフールだから、嘘をつきます。

行かないでください、と。

永遠に続くモラトリアムなんてないとわかっているけれど、あなたが本当に私を妹のように思ってくれているのなら、わがままを言わせてください。

私にとって、あの家で兄や弟妹たちと過ごした日々は、他の何物にも代えられない宝物でした。あなたと出会って支えられたのは、私も同じです。

エイプリルフールなので、嘘をつきます。

行かないでください、と。

 

ただひとつ、あなたと妹の幸せを祈る気持ちは、これは紛れもない真実です。

ご結婚おめでとうございます、Sさん。